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待機の設計

待ち行列の心理学——順番を見せるという設計

待ち行列の心理学——順番を見せるという設計

要点

  • 待ち行列の不満は、待ち時間の長さだけでは説明できない。
  • 順番が見えること、追い越されないことが、苛立ちを大きく左右する。
  • マイスターは、占有された待機が手持ち無沙汰の待機より短く感じられると整理した。
  • 公平さの感覚は、効率より優先されることがある。

銀行の窓口で、人々の視線がどこを向いているかを観察したことがある。多くの人は、自分の番号と、いま呼ばれている番号を見比べていた。残り何人か。その差が縮まるたびに、肩の力がわずかに抜ける。逆に、後から来た客が先に呼ばれると——番号制では起きないはずのことだが、別の列で起きると——表情が険しくなる。待っているのは同じ数分でも、その数分の質は、順番の見え方ひとつで変わっていた。

この観察は、目新しいものではない。デイヴィッド・マイスターは一九八五年の論文「待ち行列の心理学」で、待機の体感を左右する要因を整理した。彼が挙げた原則のひとつが、手持ち無沙汰の時間は、何かに占有された時間より長く感じられる、というものだ。窓口で番号表示を見比べる行為は、まさにこの「占有」にあたる。残り人数という情報が、空白の時間に手触りを与えていた。

公平さという、もう一つの物差し

待ち行列の研究は、効率だけでは割り切れない領域に踏み込んでいく。リチャード・ラーソンは一九八七年の論文で、待機における「社会的公正」の感覚を論じた。人は、自分より後に来た者に追い越されることを強く嫌う。たとえ全体としては速く処理されていても、追い越しが見えると不満は跳ね上がる。逆に、一本の列にまとめて順番を保証する方式は、平均待ち時間が同じでも受け入れられやすい。

デジタルの待機にも、同じ構図がそのまま持ち込まれている。サポートの問い合わせで「あなたは現在三番目です」と表示されるのは、占有と公平さの両方を満たすためだ。残り人数が見えれば輪郭を先に示す手法と同じく不確実性が減り、順番が保証されれば追い越しの不安も消える。順番という情報は、それ自体が待機を整える設計要素になっている。

見せ方が、待機の意味を変える

もっとも、順番を見せれば常に良い、とは限らない。残り人数が一向に減らない表示は、進捗の止まったバーと同じように、停滞をかえって際立たせる。窓口の観察でも、番号がしばらく動かないと、人々はそわそわしはじめた。情報を出すことは、その情報が動くという期待も同時に生む。動かない約束は、約束しないより苛立たせることがある。

一方で、効率を最優先して列を細かく分ければ、処理は速くなっても追い越しの不公平が生まれる。スーパーのレジでよく起きるあの不満だ。裏を返せば、私たちは速さそのものより、扱われ方の納得を求めている場面が少なくない。待機の設計は、最短の時間を作る問題であると同時に、待つ人が「公平に扱われている」と感じられる順序を作る問題でもある。

窓口を出るころ、ひとりの客が番号表示をちらりと見て、近くの椅子に腰を下ろした。残り三人。その情報があるだけで、彼は安心して別のことを考えはじめられた。待ち時間は変わらない。変わったのは、その時間を彼がどう過ごせるか、だった。待ち行列の設計が握っているのは、秒数ではなく、待つ人の手のなかにある時間の使い道なのである。

参考文献

  1. David H. Maister「The Psychology of Waiting Lines」(J. Czepiel ほか編『The Service Encounter』所収), 1985.
  2. Richard C. Larson「Perspectives on Queues: Social Justice and the Psychology of Queueing」Operations Research, 1987.
Window Latency 編集部 体感時間と待機の設計を追う編集チーム

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