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同期と遅延

平均より、ばらつき——ジッターが気になる理由

平均より、ばらつき——ジッターが気になる理由

要点

  • 平均的な遅延よりも、遅延のばらつき(ジッター)のほうが違和感として残りやすい。
  • 一定のわずかな遅れは、不規則な速さよりも快適に感じられることがある。
  • ネットワークの世界では、ジッターは独立した品質指標として測られてきた。
  • 体感の安定を作るには、速くすることと、揺らがせないことを分けて考える必要がある。

速い遅延と、安定した遅延。どちらが心地よいかと問われれば、多くの人は反射的に「速いほう」と答えるだろう。だが実際に二種類の応答を並べて体験すると、答えは揺らぐ。平均は速いがときどき大きくもたつく応答と、平均はやや遅いが常に一定の応答。後者のほうが落ち着く、という反応は珍しくない。ここには、速さと安定という、混同されやすい二つの価値が隠れている。

ネットワークの世界は、早くからこの二つを区別してきた。遅延そのものは「レイテンシ」として、ばらつきは「ジッター」として、別々に測られる。RFC3393は、IPパケットの遅延変動を計測するための指標を定義した文書だ。平均遅延が同じでも、パケットごとの到着間隔が揺れれば、通信の質は別物になる。とりわけ音声や映像のように、時間軸に沿って再生されるデータでは、この揺れが致命的に効く。

なぜ揺れのほうが気になるのか

一定の遅れは、人の側が適応できる。応答が常に200ミリ秒遅れるなら、私たちは無意識にその分だけ待つリズムを身につける。会話のテンポも、操作の間合いも、その遅れを織り込んで調整される。即時の手応えが連続性を生むのと同じように、一定の遅れもまた、予測可能であるかぎり連続性を保てる。

これに対して、揺れは適応を許さない。さっきは速かったのに、今度は遅い。次がどちらか読めないから、私たちは身構えつづける。予測が外れるたびに、注意がそこへ引き戻される。進捗表示で、後戻りするバーが待機を長く感じさせたのと同じ構図だ。問題は遅さではなく、遅さが定まらないことにある。

安定を作るという設計

この区別は、設計の選択肢を変える。リアルタイム通信では、受信側にわずかな緩衝(バッファ)を置き、揺れて届くパケットをいったん溜めてから、一定の間隔で再生する手法が使われる。これは平均遅延をあえて増やす操作だ。速さを犠牲にして、安定を買っている。一定の遅れのほうが快適だという体感を、設計が逆手に取った例といえる。

もっとも、緩衝を厚くしすぎれば、今度は遅延そのものが会話を壊す。ビデオ会議の間合いが崩れるのは、ジッター対策で遅延が膨らみすぎたときにも起きる。だから設計は、揺れを抑えることと、遅延を許容範囲に収めることの、綱引きのなかで点を探すことになる。一方を立てれば一方が傾く。万能の設定は存在しない。

速さと安定は、しばしば一括りに「快適さ」と呼ばれる。だが両者は別の軸であり、ときに対立する。平均だけを追えば揺れを見落とし、揺れだけを抑えれば遅延が膨らむ。裏を返せば、体感の良し悪しを語るとき、私たちは「平均何ミリ秒」という一つの数字に頼りすぎてきた。本当に問われているのは、その数字がどれだけ信頼できるか——次の応答を、どれだけ正確に予測させてくれるか、なのである。

参考文献

  1. C. Demichelis, P. Chimento「RFC 3393: IP Packet Delay Variation Metric for IP Performance Metrics (IPPM)」IETF, 2002.
  2. ITU-T Recommendation Y.1541「Network performance objectives for IP-based services」(IPサービスの遅延・ジッター目標).
Window Latency 編集部 体感時間と待機の設計を追う編集チーム

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